孟子通の解説

 本書は『四書通』の一部である。元刊本としては、現在瞿鏞の『鐵琴銅劍樓蔵書目録』六 に記載のある、泰定三年建陽余志安に命じて刻した、元天暦二年本(これは北京図書館現蔵)、またその一部が森立之『經籍訪古志』二にみえる、建安劉氏南澗書堂本『論語通』(これは国立公文書館内閣文庫現蔵)などがあるが、後者は別として、北京図書館本とは比較できず、現在明確な版刻年次を確定できない。ただ本書の版式や、紙質、刻書の様態や文字の形態、いずれも元版の特質を備えており、また前記の二書の版式とも一致するので、 なお天暦本の可能性をも残しつつ、元刊本としておくのが、妥当な判断といえよう。
 我が国に伝存する元刊『四書通』は類例が少なく、本書も貴重なものである。
 撰者胡炳文、字は仲虎、号は雲峯先生、諡は文通。『〓(ブ[注])源縣志』九に略伝があり、父胡斗 元の学風を継いで朱子学に志すこと厚く、さらに諸子百家陰陽医卜星暦術数及ばざる物なし、という。
 本書は朱熹集註を本文に付し、胡炳文通をこれに配するが、その意図は、趙順孫『四書 纂疏』呉眞子『四書集成』の欠陥を正すことにあった。なお『四書通』の全容は、『通志堂經解』によって、容易に見ることができる。
(高山節也)

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